欲望と葛藤と融合
ここは店名の語尾が ア なのか、或いは ヤ なのかで人々を惑わせる某レストラン
ソファーにもたれかかり、メニューに目を通すはたこ(20)。
彼女は冊子を数往復めくり、テーブル上に置かれた呼び出しボタンに手を伸ばした。
「ご注文承ります。」
店員が店の奥から現れ、テーブルの正面に立つ
「フライドポテトをひとつ」
「かしこまりました。」
店員は手元の機器に何かしら打ち込み、一礼してテーブルを離れた。
はたこは退屈そうに背を丸め、ポケットに手を突っ込んだまま立ち上がった
数十歩歩いた先には “DRINK BAR” と飾り付けられたコーナー。
彼女はコップを手に取り、浄水のレバーを押した
欲張りすぎて水が今にも溢れそうなコップをすり足で運び、ソファに腰掛ける
お尻で呼び出しボタンを押したかのようなタイミングで店員が登場した。
片手には湯気の立ったフライドポテト。
「お待たせ致しました、フライドポテトでございます。」
お待たせしてないんだけどね、と心中ささやかに突っ込みつつ、会釈をした。
店員は皿をテーブルの上に置き、領収書を筒状にくるくる丸めてプラスチックの容器に刺すと一礼をして戻っていった。
はたこはゴクリと喉を鳴らし、芳ばしいジャガイモの香りを放ったソレを堪能するように息をを吸い込んだ。
テーブルの傍にある調味料が並んだトレーをみつめ、ケチャップの赤いチューブを手に取る
白いフタをとり、絞り出そうとしたとき、白いチューブが目に入った
“マヨネーズ”
ポテトにマヨネーズが合いそうな気がしないでもない。
彼女は白いチューブにも手を伸ばし、赤いチューブの横に並べた。
ーーやはり王道はケチャップだ。トマトの酸味がジャガイモとよく合うのである。しかし、マヨネーズもジャガイモの風味をよりまろやかにしら引き立たせるに違いない。
彼女はしばらく腕を組み、唸った。
そして何かを思い出し、身体を起こして手をポテトに伸ばす。
やはり冷めている。そのポテトは湯気を立てていたのが遠い昔かのように舌の上で転がして熱を冷まさなくてもいいぐらいには冷めていた。
せめて、まだ熱が残っているうちに食べたい。
その欲望がさらに心の葛藤を焦らした。
はたこは長く細い息を吐き出し、背筋を正した。その瞳は、他でもない、まっすぐまっすぐフライドポテトを見つめていた。
そして、右手にマヨネーズ、左手にケチャップをとりーー
ブチュッ
両方をポテトの上にぶちまけた。
さらにはポテトを一本とり、ぶつかり合う赤白の勢力をぐちゃぐちゃにかきまぜてしまった
やがてピンク色に変化したソレをたっぷり被ったポテトを口の中へ放り込む。
彼女は目を見開いた。
「な、なんだこれは!」
トマトの酸味とマヨネーズのクリーミーさが拳を開き、指を絡めているではないか!
「これはクックパッドで話題になる!なるぞ!!!!」
善は急げ。彼女はポテトに伸びる手を抑え、スマートフォンのカメラにピンク色のポテトをおさめた。
料理名:【奇跡の和解】
材料:ケチャップ マヨネーズ 半々
レシピ:材料を投入し、混ぜる
これで私は人気者だ
投稿ボタンを押す頃には、口角が上がりきっていた。
しかし、現実は想像とひどく違っていた。