ナマケモノときどきヤルキモノ

特に食欲に忠実です

夏のおわりと秋のはじまり

ぬるくなったつり革を握りしめて窓の外を見つめる。
窓の外は橋の支えが横切るたびに何かの信号のように、チカチカと点滅しながら川の輝く水面が見え隠れしている。
水面はピンク色の絵の具に水をたっぷり差したような鮮やかな色をしていた。

夕焼けには一体何種類の色があるんだろう。
このピンク色はどこかで見たことがある。
なぜだろうか、性的なイメージが頭を離れない。

ふと、視界の隅で少年を捉える。
彼はスマートフォンを窓に向けては、シャッターを押している。
見るつもりではなかった、ただすこしだけ気になったのだ。
Twitterだろうかーーー文字の羅列にピントを合わせる。

『夕焼けがエロい色してる』

おもわず息を飲んだ。
まさか同じことを考える人がいるとは!
なんだか恥ずかしくなり、雑念を投げ捨てるように視線を窓の外に向ける。
金属音が鳴り、車内の人々の体が傾斜する。
ドアが振動とともに勢いよく開き、人間ダムの放流が始まる。
冷たい風が吹き込み、呼吸がしやすくなった。

少年はいなくなっていた。

ピンクの光に染まった座席に腰を下ろすと、あたらしい真っ白なシャツが別物に変身する。
スマートフォンを取り出すと、夕陽を塞いだ部分だけが白く脱色した。

Twitterを開き、意味もなく親指を上下していると頭に電撃が走った。
あの色、近所のラブホのネオンの色だ