ナマケモノときどきヤルキモノ

特に食欲に忠実です

夏のおわりと秋のはじまり

ぬるくなったつり革を握りしめて窓の外を見つめる。
窓の外は橋の支えが横切るたびに何かの信号のように、チカチカと点滅しながら川の輝く水面が見え隠れしている。
水面はピンク色の絵の具に水をたっぷり差したような鮮やかな色をしていた。

夕焼けには一体何種類の色があるんだろう。
このピンク色はどこかで見たことがある。
なぜだろうか、性的なイメージが頭を離れない。

ふと、視界の隅で少年を捉える。
彼はスマートフォンを窓に向けては、シャッターを押している。
見るつもりではなかった、ただすこしだけ気になったのだ。
Twitterだろうかーーー文字の羅列にピントを合わせる。

『夕焼けがエロい色してる』

おもわず息を飲んだ。
まさか同じことを考える人がいるとは!
なんだか恥ずかしくなり、雑念を投げ捨てるように視線を窓の外に向ける。
金属音が鳴り、車内の人々の体が傾斜する。
ドアが振動とともに勢いよく開き、人間ダムの放流が始まる。
冷たい風が吹き込み、呼吸がしやすくなった。

少年はいなくなっていた。

ピンクの光に染まった座席に腰を下ろすと、あたらしい真っ白なシャツが別物に変身する。
スマートフォンを取り出すと、夕陽を塞いだ部分だけが白く脱色した。

Twitterを開き、意味もなく親指を上下していると頭に電撃が走った。
あの色、近所のラブホのネオンの色だ

仏像の瞬き

わたしは『福岡県』に対して特別な感情をもっている。
それは決して「父の実家があるから」といった一面的な理由ではない。

いま2018年、わたしは5年ぶりに父の実家に来ている。

 

ついこの前までわたしの祖父の弟にあたるほとんど関わりのない親戚の家にいた。
その家に行くと大きな仏像が睨みを効かせた仏間があり、毎年うなぎパイを持っていくと40分や50分正座をしてお経を聞かなければならなかったことだけは覚えている。
ところが、お経を唱え、木魚を叩く丸い背中のおじいさんが倒れたらしいのだ。
癌の手術を終え、退院したようなのだが「いつ死ぬかわからんから会いにいきなさい」という福岡の祖母の一言で行くことになったのだ。

 

正直、乗り気ではなかった。
1時間であろうと、正座させられることは大した問題ではない。
父が知らない誰かになるのがいやだったのだ。
10年ほど前だろうか、しびれた足をもじもじ動かして面白いものを見つけようときょろきょろしていたら隣に知らない人がいてぎょっとしたことがある。
その人は紛れもなく、私の父だった。
しかし、何度見ても、父ではなかったのだ。
背中を丸め、手をあわせるその姿は、娘であるわたしが知らない人生を歩む”トシユキ”であった。
「福岡で生まれ育ち、長崎の大学に行き、念願のヤマハ株式会社で勤めるために浜松に来た。」
わたしが知っている父の人生はこんなものだ。
隣に座っていた”トシユキ”という人間は中学生の頃からタバコを吸い、長男の重圧に悩み、兄弟仲をこじらせ、数々の恋愛をしてきた(父によく似た顔の)男の人だった。
彼はわたしよりもはるかに年上ではあったけれど、同じ年齢の男の子にもみえた。
その瞬間から、わたしにとって福岡が特別な場所になったのだ。

 

話が脱線してしまった。
とにかく「うぇーまた仏間行くのかなあ」という気持ちで5年ぶりの親戚の家に上がったのだ。
すると仏間の奥の扉が開き、白いおじいさんが出てきた。
「白い」と表現したのは白いTシャツを着ていたからでもあるし、白い髪の毛をしていたからでもある。
ただ、私には妙に白くみえただけである。
白じいさんは「よく来たね」とだけ言い、玄関から仏間までわたしたちを誘導した。
その道中には丸められた羽毛布団や毛布が散らかっていて、4つの季節がすべてこの家の中に留まっているような不思議な感じがした。
仏間に着くと、白じいさんはまず3メートルほどの仏像に手を合わせて深く会釈した。
流れるような動作ではあったけれど、つぶる前の目は仏像の艶やかな瞳を深くとらえていて、日常の中でこの動作を大切にしていることがわかった。
白じいさんは歩を慎重に進めると座布団に膝を立て、ろうそくに火を灯した。
火をふって消せず、父にマッチを渡したのは骨が皮をぶらさげているような腕だった。
わたしはその腕から目が離せなかった。
今にも千切れて床に落ちそうなほどにたるんだ皮が重そうで、わたしはつい自分の腕の皮をつまんでしまった。

 

父が線香を立てたのでわたしも続こうとしたとき、白じいさんはあぐらをかき、自分の腹を指差した。
なにやら病気の話をしているようだ。
線香立てがおわり、仏壇のほうを見上げると父が立てた線香の先端が1センチほど灰になっていた。ふと仏像の瞳をみていると仏像の向かいのカーテンが風でめくれ上がり、光が差したので瞬きしているような錯覚をおこした。
そういえば今夜台風がくるといっていたな、と思って線香に目をうつすと灰はすべて落ち、赤い火が先端に灯っていた。

 

なんとなく気になって仏像の向かいの窓を眺めた。
するとまたカーテンがめくれ、外が見えた。
水場があった。
畑作業帰りに長靴を洗うための場所だろうか、ホースがつなげられた蛇口が見える。
その蛇口の真下には仏壇用の枯れた葉がひろげられていた。
そばにはさみが置かれていて、この大きな仏像のために一生を捧げたのかのような儚さを感じた。
儚さ・・・ではないが、この感情を言葉に当てはめるなら「儚い」がいちばんしっくりくるので使っているだけだ。
その葉を見て、ふと白じいさんを思い出した。
視線をうつすと、白じいさんは顔をしわくちゃにした満面の笑顔を浮かべていて、後ろのカーテンがなびいている。
カーテンの上には歴代の先祖が笑顔で写った遺影があり、白いカーテンから漏れた白い光がさらに彼を白く染め上げていた。
美しい、と思った。

 

そうそう、ここまで一度も出てきてないが白じいさんには奥さんがいて、彼女もずっとその部屋にいた。
ただ、彼女は認知症が進行していて、わたしに「あんたどこの娘?」と5回ほど聞いてきた。
「トシユキの娘です」というと、毎回きまって「そうかい!あえてうれしいなあ」と可愛らしく微笑んだ。
隣に座っていた母は悲しそうな目を浮かべていたが、私には白じいさんも奥さんもこのうえなく幸せな夫婦にみえた。
ラッセルが言っていた。
「困難なときがいちばん幸せである。なぜなら未来は自分の手で変えられるからだ」(超訳
この2人には死後の世界が輝いてみえているのだ。
きっと、目を閉じればあの世での幸せな日々を思い描いているのだろう。
それが幸せかは他人が決めることではない。
近いうちに完全に白くなった夫婦はなびくカーテンの光に溶けるようにあの世へ旅立っていくのだなあと、なんとなく思った。

「傘からアイデンティティを奪いたい」

 

 

私はよく傘を置き忘れます。

 

駅に、バスの中に、コンビニに。

 

ひどい時は3本連続で買った傘をその日になくしました。

 

私は悩み、そして傘の最大の欠点に気づいてしまったのです。

 

みなさん、駅の忘れ物コーナーを見たことはありますか?

 

傘が大半なのです。

 

薄汚れたもの、新品のものまで、ずらりと忘れ去られた傘が並んでいます。

 

それはやはり、みんなの潜在的な意識の中に

 

「傘=忘れるもの」

 

という方程式が成り立っているからなのではないでしょうか。

 

つまり、傘には「忘れるもの」という定義が存在するのです!

 

忘れ去られる傘が多くて当然ですよね。

 

 

そもそも、傘って

 

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こういう形ですよね。

 

私はいつもこう思います。

 

「クリエイティブさが足りない」と。

 

携帯電話は誕生したその日から留まることなく進化をし続けました。

 

「クソダサな」肩掛けスタイルから「クールな」手持ちタッチパネルタイプまで大飛躍を遂げたのです。

 

しかし、傘はどうでしょう。

 

雨が降ると街のあちこちで見ますが、

 

もう一度見てください。

 

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違和感極まりないですよね。

 

ファッションの一部としても馴染めていません。

 

そうなのです。

 

傘はアイデンティティが強すぎるのです。

 

(アイデンティティ=形の統一性 とここでは定義しています。)

 

これほどまでアイデンティティが強くては、「忘れるもの」という定義も揺るがないものになってしまいます。

 

スマートフォンの存在感のなさを見習ってほしいものです。

 

ということで、アイデンティティを傘から奪う方法をいろいろ考えました!

 

 

傘からアイデンティティを奪う方法その①

 

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「ワイヤーで収納もねじってカンタン!傘」

 

骨組みは見ての通り、完全にワイヤー。

 

雨の日はイヤホンと同じような存在感を放つワイヤーをバッグの中に忍ばせておけばok!

 

さらに、ビニールテープもバッグの中に忍ばせておけば…

 

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立派な傘の出来上がり!

 

 

「ワイヤーで収納もねじってカンタン!傘」

 

メリット

・ワイヤーのコンパクトさで持ち運びも楽チン

・工作が楽しい!

・クリエイティブな感じがする

・注目を浴びることができる

 

デメリット

・ワイヤーを曲げてテープを巻いているうちに雨が止みそう

 

 

傘からアイデンティティを奪う方法②

 

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「 ししおどしを応用した傘」

 

平面図なので若干わかりにくいのですが、イラストのUは受け皿のようになっております。

 

そして雨に降られ、受け皿が受ける水の量が増えていくと…

 

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このように1つ下の受け皿に水が落ちていきます。

 

まさしく日本美を取り入れており、「これがクリエイティブだ」と胸を張って言えるのではないでしょうか?

 

さらに、最後の受け皿が落ちると…

 

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カンッ!という大きな音とともに目の前に大量の水が降ってきます。

 

スリル満点で、雨の日も楽しくなりますね!

 

 

「ししおどしを応用した傘」

 

メリット

・日本美を感じられる

・クリエイティブっぽい

・ししおどしの音が爽やか

・スリル満点

 

デメリット

・すごく重い

 

 

傘からアイデンティティを奪う方法③

 

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「ヘルメット傘」

 

見ての通り、ヘルメットに傘をくっつけるだけ。

 

圧倒的な単純さに加え、傘としてのアイデンティティも隠しきれていません。

 

でも、よく考えてみてください。

 

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傘のダサさの原因って、

 

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取っ手なのではないでしょうか。

 

今の時代、スマホの財布機能によってノーマネー化が進んでいますね。

 

さらに手帳もアプリ化、極めつきにはスマートフォンまで時計に姿を変えています。

 

全体的に小さくなり、コンパクトになり、ファッションの一部として持ち物を持ち歩く時代になりました。

 

しかし、傘は時代に乗り遅れています。

 

バッグは小さくなったのに、傘はいつまでたっても重くて大きいものなのです。

 

それって、なんだかダサくないですか?

 

そこで、この「ヘルメット傘」ですよ。

 

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これならスマホを持つ手も妨げませんし、

 

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このまま自転車にも乗れます。

 

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なんだか、スマートじゃないですか?

 

ただ、この傘の問題点は

 

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閉じると顔面に水が落ちてくることでしょうか。

 

 

「ヘルメット傘」

 

メリット

・今の時代をときめくハンドフリー

・上から何かが落ちてきても安全

・重さをあまり感じない

・絶対に置き忘れない

 

デメリット

・閉じると水が顔面に落ちてくる

・お辞儀すると凶器に変貌する

 

 

以上、私からのプレゼン「傘からアイデンティティを奪いたい」でした。

満員電車

 

ーー私はたった今、生まれて初めて地球から離れた。


厳密に言えば、

ブランコで空を目指したこともあったがーー

 

 

 

「地球から5センチ浮遊中の大学生(20歳)と中継がつながりました。どうぞ。」

 

「はい、えー、聞こえますか。アーアー、マイクテストマイクテスト」

 

「早速、なぜそのようなことに至ったのか、説明いただけますか?」

 

「はい。地面が傾いたんですね」

 

「地面が?」

 

「はい」

 

地震ではないんですよね?」

 

「いいえ」

 

「そうですか、続けてください。」

 

「一枚の鋼鉄の端っこを未確認生命体が押し上げた感じで」

 

「それで傾いたと」

 

「もしかしたら釣り上げたのかも」

 

「どっちでもいいですね」

 

「地面が傾いた!って思ったら突然息苦しくなったんです」

 

「なぜ?」

 

ボブサップの二の腕に囲まれたんですよ」

 

ボブサップ

 

「ていうかボブサップがたくさんいました」

 

「不可解ですね。」

 

「地面の傾きを利用してタックルをしてきたんですよ、ボブサップが」

 

「倒(地)法ですね、なんて」

 

「後ろにもボブサップがいたので 背水のボブサップ でしたね」

 

「背水のボブサップ

 

「それで、声にならないうめき声をあげたんですよ」

 

「ええ」

 

ボブサップさっさとどけよって思ったんですけど、ボブサップにもボブサップがタックルしてたんですよ」

 

「つまりあなたはボブサップに阻まれボブサップにタックルされボブサップボブサップにタックルされたんですね」

 

「そうなんです」

 

「それで、ボブサップがどう5センチ浮遊につながるのでしょうか」

 

「ボブサッズはタックルしてたので中腰だったんですよ」

 

「複数形はボブサッズなんですね」

 

「それで、地面がガタンって戻ったんですよ」

 

「ええ」

 

「そしたらボブサッズは姿勢を直しますよね」

 

「ええ」

 

「私に四面楚タックル中のボブサッズが同時に上方向に動いたらどうなりますか」

 

「あ、押し上げられますね」

 

「そうなんです」

 

「ボブサッズに上向きに押し上げられて5センチ浮いたんですね」

 

「上向きって、ムキとかけてますよね面白いです」

 

「かけてません

ーー中継は以上です。ありがとうございました。」

 

「ありがとうございました。」

欲望と葛藤と融合

ここは店名の語尾が ア なのか、或いは ヤ なのかで人々を惑わせる某レストラン

ソファーにもたれかかり、メニューに目を通すはたこ(20)。

彼女は冊子を数往復めくり、テーブル上に置かれた呼び出しボタンに手を伸ばした。

 

「ご注文承ります。」

 

店員が店の奥から現れ、テーブルの正面に立つ

 

「フライドポテトをひとつ」

「かしこまりました。」

 

店員は手元の機器に何かしら打ち込み、一礼してテーブルを離れた。

はたこは退屈そうに背を丸め、ポケットに手を突っ込んだまま立ち上がった

数十歩歩いた先には “DRINK BAR” と飾り付けられたコーナー。

彼女はコップを手に取り、浄水のレバーを押した

欲張りすぎて水が今にも溢れそうなコップをすり足で運び、ソファに腰掛ける

お尻で呼び出しボタンを押したかのようなタイミングで店員が登場した。

片手には湯気の立ったフライドポテト。

 

「お待たせ致しました、フライドポテトでございます。」

 

お待たせしてないんだけどね、と心中ささやかに突っ込みつつ、会釈をした。

店員は皿をテーブルの上に置き、領収書を筒状にくるくる丸めてプラスチックの容器に刺すと一礼をして戻っていった。

 

はたこはゴクリと喉を鳴らし、芳ばしいジャガイモの香りを放ったソレを堪能するように息をを吸い込んだ。

テーブルの傍にある調味料が並んだトレーをみつめ、ケチャップの赤いチューブを手に取る

白いフタをとり、絞り出そうとしたとき、白いチューブが目に入った

“マヨネーズ”

ポテトにマヨネーズが合いそうな気がしないでもない。

彼女は白いチューブにも手を伸ばし、赤いチューブの横に並べた。

 

ーーやはり王道はケチャップだ。トマトの酸味がジャガイモとよく合うのである。しかし、マヨネーズもジャガイモの風味をよりまろやかにしら引き立たせるに違いない。

 

彼女はしばらく腕を組み、唸った。

そして何かを思い出し、身体を起こして手をポテトに伸ばす。

やはり冷めている。そのポテトは湯気を立てていたのが遠い昔かのように舌の上で転がして熱を冷まさなくてもいいぐらいには冷めていた。

せめて、まだ熱が残っているうちに食べたい。

その欲望がさらに心の葛藤を焦らした。

はたこは長く細い息を吐き出し、背筋を正した。その瞳は、他でもない、まっすぐまっすぐフライドポテトを見つめていた。

そして、右手にマヨネーズ、左手にケチャップをとりーー

 

ブチュッ

 

両方をポテトの上にぶちまけた。

さらにはポテトを一本とり、ぶつかり合う赤白の勢力をぐちゃぐちゃにかきまぜてしまった

やがてピンク色に変化したソレをたっぷり被ったポテトを口の中へ放り込む。

彼女は目を見開いた。

 

「な、なんだこれは!」

 

トマトの酸味とマヨネーズのクリーミーさが拳を開き、指を絡めているではないか!

 

「これはクックパッドで話題になる!なるぞ!!!!」

 

善は急げ。彼女はポテトに伸びる手を抑え、スマートフォンのカメラにピンク色のポテトをおさめた。

 

料理名:【奇跡の和解】

材料:ケチャップ マヨネーズ 半々

レシピ:材料を投入し、混ぜる

 

これで私は人気者だ

投稿ボタンを押す頃には、口角が上がりきっていた。

しかし、現実は想像とひどく違っていた。

 

コメント:「オーロラソースってググレカス

 

 

 

 

 

 

カフェで女たちにささやかな喧嘩を売った話

突然だが、私は最近ロイヤルミルクティーにハマっている。

高校生までは「午後の紅茶ミルクティー」で満足していたが、そんな私を大きく変えたのはセブンイレブンの「ロイヤルミルクティー」との出会いだ。

これがまた美味い!んだ!

程よい甘さ、まろやかさ、でもスパイスがほんのり効いてて鼻を突き抜ける葉っぱの香りーーー

あれ以来、私はセブンイレブンロイヤルミルクティー以上の出会いを求めて様々なカフェを巡っている。

 

さて、ここまでが前置きである。

本題との関連性は一切ない。

そういうわけでカフェにいたのだ。

サンマルクなる、ベルセルクを彷彿させるネーミングのカフェだ。

(ベルセルクをご存知の方は一度お手合わせいただきたい(何を))

 

ドアの近くの席に腰をかけ、ロイヤルミルクティーをすすっていた。

すると、隣の6人組のガールズが自撮りを始めた。

席と席はそんなに離れておらず、高々と掲げられたiPhoneが私のテリトリーに不法侵入していた

 

フリル女「みんな写らないね、、、」

ワンレン女「わたし魚眼レンズもってる!」

ぱっつん女「まっじでー!魚眼!つかお!」

 

ワンレンは持ちにくそうなクラッチバッグからクリップ的な超挟めそうな器具のついた魚眼レンズを取り出した

女たちは嬉しそうに手を叩いた。ウホウホ。

そして、再び腕を掲げた。

私の読んでいる本にiPhoneの影が落とされる。

本を動かすが、iPhoneが負けじと追いかけてくる。

フリルが懸命に光を探してiPhoneを振っているのだ

 

フリル女「ここ暗いね、、、」

 

あぁ、おかげで字が読めないよ。

フーと息を吐き出す。ここでイラッとしたら負けだ。

あと数分我慢すれば終わるだろう。

 

ところが、そんな目論見は甘かった。

女たちは魚眼に向かってカワイイカワイイと賞賛の声を上げながらキメ顔を次々とキメている。

逃げても逃げてもiPhoneが追いかけてくる。

私のイライラはマックスである。

 

と、そこであひる口をかましていた女がわめきだした。

 

キャンキャン女「ねえわたしめっちゃ太ってみえるー!!!ヤダァ!」

フリル女「真ん中だもんねえ」

ワンレン女「大丈夫そんな太って見えない」

キャンキャン女「嘘だぁ!太ってる!場所変えてー!!!」

ばっつん女「やだよ!あたしが太ってみえるやん!」

 

視界がうるさくて仕方なかった。

いつもなら、ガン飛ばして席を移動していたであろう。

しかし、今日の私は一味違った

隣に座っていた女が突然立ち上がり、口角だけ上げて「撮りますか?」と声をかけられたらどうだろうか

もちろん人間なら断れないだろう。日本人ならなおさら。

しかもそのあと自撮りを始めたら

「アナタの撮る写真では満足できましぇーんアバババ」

というのと同じだからだ。

そう思い立ったら善は急げだ。

 

私「撮りますか?」

女たち「「「「えっ」」」」

 

どうする?どうする?と女たちが目配せをする。

 

ワンレン女「あ、、、じゃあ、、、」

 

動揺しつつも、ワンレンがiPhoneを渡してきた。

所詮女たちも日本人なのである。

さあ、みんな思いっきりキメ顔をかましてくれ!と言わんばかりにiPhoneを構えた。

 

ところが、女たちは先ほどまでのあひる口やらウインクやら舌出しやらが幻だったかのようにおとなしいピースでニコニコ微笑んだ。

 

私「あの、もっとキメてもいいんですよ」

「「「えっ」」」

私「えっ」

ワンレン女「イヤ大丈夫です」

私「そうですか」

 

パシャパシャ

申し訳程度におまけ、+1パシャ。

こんなもんか、とiPhoneを返す。

 

ワンレン女「ありがとうございます…」

「「「…ありがとうございます」」」

 

どうせ礼を言うなら起立して

アリガトーゴザイマシタァァァ!!!礼ッ!!!!!

とやってほしかったのだがささやかな喧嘩を売った身として贅沢は言えまい。

 

私は口角だけを上げたまま会釈を交わし、読書に意識を戻した。

ーーーはよ去れ。

そう女たちに念力を送りながら。

すると、それが効いたのか女たちはすぐに席を立って出て行ってしまった

どうせ光を求め、手を掲げに行ったのだろう

その女たちの行方は誰も知らないーーー

 

 

 

 

ちなみにサンマルクロイヤルミルクティーはハズレであった。

史上最高についてない日

我らが日本には「ふんだりけったり」や「泣きっ面に蜂」という言葉が存在する。

これらは『悲劇に悲劇が重なり絶望する』ことを表している。

 

 

私という者はいたって平凡である。

 

「(私)ってちょっとネジ足りないよね〜wwwww」

とはよく言われるが、これもまた実は社交辞令のひとつなのである。

 

「(私)ってちょっとネジ足りないよね〜wwwwwだから面白いし絡みやすいよズッ友だよちゅっちゅ」

の略だと言っても過言ではないはずだ。

 

ーーーしかしながら、あの日の私は一段、二段、いや、十段違った。

あれほどの不運さは普通という言葉で片付けられない。

「ふんだりけったり殴ったり骨折ったり爪剥がしたり目潰したり強姦したり殺したり」

というレベルだ。

神様もOh my god ! と頭を抱えて私のつむじを眺めているに違いない。

 

では、某日の私をご覧いただこう。

 

 

7月某日 晴れのち雨

 

私はレポートに追われていた。

最後の「。」をエンターキーで力強くキメた頃には朝日が眩しかった。

やがて寝落ちし、気がつくと陽は真上に昇っていたーーー

 

その1『遅刻』

 

パジャマの上だけを着替えて飛び出し、ママチャリを漕いでコンビニへ。

遅刻は遅刻だ

それならば、と私は5分間と20円を犠牲にレポートを印刷しようとしていた

はやる気持ちを抑えきれず、指先はリズムの天国の如くビートを奏でる。

しかし、その犠牲は報われなかった

 

その2『プリンター故障』

 

焦りと苛立ちを露わにしたため息をつく。

プリンターに唾を吐きかけたい衝動に駆られながらも、コンビニをあとにしてチャリを漕いだ

憎たらしいほど澄んだ青空にFU○Kである

しかし、教室に踏み入った瞬間、異変に気付く。

 

その3『教室変更』

 

単位ヌンティウスを救出すべく、私は走った。

教室の人全員に注目されながらドアを勢いよく開け、肩で息しながら席に着く。

友人が「レポートは?」と心配そうに聞いてくる

わかっている、だから言うな

私は鋭い眼光で友人を黙らせ、言い訳を必死に考えた。

しかし、私はこれまでに親戚を殺しすぎた

もうこれ以上、親戚は殺せない

そう思った私は観念し、授業が終わるのと同時に先生に名乗り出た。

「ちょっとだけ待ってやる」

淡い希望が見えた。

単位ヌンティウス救出、か?

しかし、この日の不運っぷりはこんなものではない。

 

その4『学生証を忘れる』

 

大学のハイテクさを恨む日が来るとは。

コンピューター室は学生証をかざして入る仕組みなのだ

プリンターはすぐそこなのに、なんてもどかしい!

トムジェリーの如く身体を翻し、事務室へ走った。

入室許可をもらい、ようやくプリンターとご対面

しかし、私は思い出してしまった

 

その5『迫り来るアルバイトの時間』

 

やばい!あと5分で学校から出なければ!

私は印刷したものを握りしめ、研究棟へ駆け抜けた

先生の研究室のドアを気持ち強く叩く

しかし、返答はなかった

あと渡しさえできれば単位もアルバイトもGOできるのに!

もはやここまでか、と失望しかけたその時だった。

「なにか用?」

こいつは、モーゼに違いない。メシアだ、メシア!

この女性は絶望の海を切り開いてくれるのだ。そう信じて疑わなかった。

「○○先生にこれを渡してほしいんですが」

 

その6『モーゼは雷おばさん』

 

メシアだと思われた彼女は顔が歪み、鬼瓦のような牙を立てた。

突然始まったのび太ママのようなお説教!

お前誰だよ!なんて言ったら殺される。

真剣にそう思った私は、柄にもなくしょんぼりと説教を受ける。

ようやく解放された時には目標の先生が哀れみの目でこちらを見つめていた

そんな目で見るんじゃない!

羞恥でおかしくなりそうだった私は二枚の紙切れを先生に差し出し、すぐさま駐輪場へ駆け出した。

 

その7『ゲリラ豪雨

 

チェーンが外れそうなほどハイペースでペダルを回していると、頬に冷たいものが落ちてきた

空を仰ぎ見ると、バケツの水をひっくり返したのかのような雨が私を襲った。

ゲリラ豪雨

雨で目は痛いし、デニムはずり落ちて半ケツであった。

やっとの思いで家に帰り着き、服を絞って洗濯機に入れ、髪の毛を乾かした。

もうこの時点でアルバイトの遅刻は確定である。

店長の怒号を覚悟した私は半泣きで連絡を入れる

「今日シフト間に合いません」

 

その8『とんでん返し』

 

「え?あんた夜からだけど?」

下着姿で窓を開けると、雲の切れ目から一筋の光が差していた

その光は我が家のベランダを照らしており、私は目を細めた

しばらくそうしていると、なぜだか笑いがこみ上げてきた

鼻の穴を膨らませ、頬を緩めると細い息を吐き出す。

未来は明るかったーーー